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浦和地方裁判所 昭和55年(行ウ)10号 判決

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一  当事者の申立

一  原告

1  被告が昭和五五年二月二〇日付でなした原告の昭和五二年四月一日から同五三年三月三一日までの事業年度及び同五三年四月一日から同五四年三月三一日までの事業年度の事業税についてした重加算税の各賦課決定を取消す。

2  訴訟費用は被告の負担とする。

二  被告

主文同旨

第二  当事者の主張

一  請求原因

1  原告は、昭和五三年五月三一日に、同五二年四月一日から同五三年三月三一日までの事業年度(以下「昭和五三年三月期」という。)分の事業税につき、税額を六万三八四〇円とする確定申告をなし、また、同五四年五月三〇日に、同五三年四月一日から同五四年三月三一日までの事業年度(以下「昭和五四年三月期」という。)分の事業税につき、税額を一〇八万五四〇〇円とする確定申告をなした。

2  川口税務署は、昭和五四年一〇月四日より、原告につき法人税に関する調査を行なつた。

3  原告は、昭和五四年一二月一八日、同五三年三月期分の事業税につき、税額が七九万〇四四〇円であり、同五四年三月期分の事業税につき、税額が四〇六万二八四〇円であるとする修正申告を行なつた。

4  ところが、被告は、昭和五五年二月二二日、原告に対し、原告の昭和五三年三月期分の事業税について重加算金二一万七八〇〇円、同五四年三月期分の事業税について重加算金八九万三一〇〇円をそれぞれ賦課する旨の決定をなした。

5  しかしながら、被告の右重加算金賦課決定(以下「本件処分」という。)は、以下の理由により違法であるから取消さるべきである。

(1) 地方税法(以下「法」という。)七二条の四七第三項、同条の四六第一項但書の規定により、重加算金を賦課するには、納税義務者の申告または修正申告(法七二条の三三第二項)が、道府県知事による事業税額の更正があるべきことを予知してなされたものでなければならず、そのためには、論理必然的に当該修正申告書が提出される以前の段階で、道府県知事が法七二条の三九第一項による更正の要件が存することを知つていることを要することとなる。

本件においては、原告のなした昭和五三年三月期及び昭和五四年三月期の法人税の確定申告の所得金額及び税額と事業税の確定申告のそれとは同一であり、また、右各確定申告についての修正申告は、いずれも同時になされ、かつ、所得金額と税額についても一致していたのであるから、法七二条の三九第一項による事業税についての更正をなす要件は存在しないし、また、被告は、独自に原告に対し税務調査を行なつたわけではないから、原告の修正申告を受理した時点より以前に、原告に更正の要件があることを知つているともいえない。とすると、埼玉県知事若しくは被告は、原告に更正の要件が存することを了知していたとは考えられない。したがつて、原告が、知事による更正を予知して修正申告をすることはない。

(2) 原告の本件各修正申告は、公認会計士・税理士である訴外木下彰によりなされたものであるところ、同人は、被告による更正を全く予知していなかつた。

(3) 以上の理由で、仮に、右修正申告により増加した所得について仮装または隠ぺいがあつたとしても、法七二条の四六第一項但書の場合に該当し、原告に対し、重加算金を賦課することはできない。

二  請求原因に対する認否

請求原因1ないし4の事実は認めるが、同5の主張は争う。

三  被告の主張

1  埼玉県知事は、昭和五五年一月一一日、法七二条の五九の規定に基づき、埼玉県川口県税事務所の職員を川口税務署に赴かせ、原告の法人税の課税標準である所得及び法人の事業税額を算定するために必要な資料を調査させたところ、原告が昭和五四年一〇月四日から川口税務署の調査を受け、同税務署の指導に基づいて法人税の修正申告を行なつたこと、右申告においては、昭和五三年三月期分の所得金額が一〇六万四〇三五円から九二一万二〇三五円に、同五四年三月期分の所得金額が一一六七万〇七五五円から三六四八万二八八〇円に、それぞれ修正されたこと、川口税務署長は、昭和五四年一二月二五日、原告の修正申告により増加した分の所得について仮装隠ぺいがあつたとして、同五三年三月期分については七六万三八〇〇円、同五四年三月期分については二九七万二四〇〇円の法人税の重加算税をそれぞれ原告に賦課する旨の処分をなしたことが判明した。そこで、被告は、右調査の結果に基づき、原告の事業税の修正申告により増加した分の所得に仮装隠ぺいがあつたものとして、法七二条の四七第一項により修正申告に基づく昭和五三年三月期分の修正申告により確定した税額七九万〇四四〇円から、既に納付した税額六万三八四〇円を控除した税額七二万六六〇〇円(但し、法二〇条の四の二第二項により千円未満切り捨て)の一〇〇分の三〇に相当する金額二一万七八〇〇円を、昭和五四年三月期分の修正申告により確定した税額四〇六万二八四〇円から、既に納付した税額一〇八万五四〇〇円を控除した税額二九七万七四四〇円(但し、法二〇条の四の二第二項により千円未満切り捨て)の一〇〇分の三〇に相当する金額八九万三一〇〇円を、それぞれ法人の事業税の重加算金として本件決定をなしたものである。

2  重加算金が賦課されるには、修正申告によつて税額が増加した場合、課税標準の計算の基礎となる事実に仮装隠ぺいの事実があることを要し、かつそれで足りる。但し、修正申告書を提出する際に、納税義務者が、知事の更正があるべきことを予知していない場合は除かれる。

したがつて、原告が主張するように知事が更正の要件を予知していることは必要ではない。

3  ところで、法七二条の一四第一項によると、法人の事業税の課税標準である所得の算定は、法人税の課税標準である所得の計算の例によるとされているが、これは、法人の事業税の課税調査を知事が行なうことによつて、納税義務者が、二重の税務調査を受けることとなる煩雑さを避けるとともに、税務行政の簡素化を図るためである。

したがつて、納税義務者としては、税務署による法人税の調査を受けると、その調査の結果が当然に地方税である法人の事業税に及ぶというのは周知のことである。また、法人税の課税標準たる所得が増加すると、法人の事業税の課税標準である所得も同様に増加し、仮に、法人の事業税の修正申告書を提出しない場合は、道府県知事が法七二条の五九の規定に基づく調査によつて、原告に対して法七二条の三九第一項により更正処分を行なうこととなることは原告においても十分承知しているところであり、国税官署による具体的調査によつて、原告の申告不足税額が発見された後になされた法人の事業税の修正申告をもつて知事の更正がなさるべきことを予知してなされた修正申告とみることに不合理な点はない。したがつて、原告の本件修正申告は、法七二条の四六第一項但書の場合に該当しない。

四  被告の主張に対する認否

被告の主張1の事実は認めるが、同2、3の主張は争う。

第三  証拠(省略)

理由

一  請求原因1ないし4の事実は、当事者間に争いがない。

二  そこで、本件各処分につき、原告の主張するような違法事由があるか否かにつき検討する。

1  法人の事業税の納税義務者から申告書の提出があつた場合、道府県知事の更正があつたとき、または、修正申告書の提出があつたときは、当該更正に係る不足税額または修正申告により増加した分の税額につき、過少申告加算金が徴収される(法七二条の四六第一項)が、当該修正申告書が、道府県知事の更正があることを予知して提出されたものでないときは過少申告加算金を徴収しないこととされている(法七二条の四六第一項但書)。そして、右のように過少申告加算金を徴収すべき場合において、法人が課税標準額の計算となるべき事実の全部または一部を隠ぺいまたは仮装し、かつ、その事実に基づいて申告書を提出したときは、道府県知事は、過少申告加算金額に代えて当該過少申告加算金の計算の基礎となるべき税額に一〇〇分の三〇の割合を乗じて計算した金額に相当する重加算金額を賦課徴収しなければならない。(法七二条の四七第一項)。

なお、右のように重加算金額を賦課徴収すべき場合において、申告書または修正申告書が、道府県知事の更正または決定があるべきことを予知してなされたものでないときは、重加算金を賦課しないこととされている(法七二条の四七第三項)。

ところで、右にいう「道府県知事の更正または決定があるべきことを予知してなされたもの」とは、申告書または修正申告書の提出が道府県知事による納税義務者に対する当該事業税に関する具体的調査が行なわれた後になされた場合ばかりではなく、同一人に対する法人税に関する国税官署による具体的調査が行なわれた後に右調査の事実を認識してなされた場合も含まれると解するのが相当である。けだし、法人の事業税の課税標準となる所得の算定は、特別の定めのない限り法人税の課税標準所得計算の例によるとされており(法七二条の一四第一項)、したがつて、納税義務者としては、法人税に関する調査がなされ、右調査に基づいて、たとえ納税義務者において修正申告をなさなくとも、法人税に関する当該税務署長による更正がなされることが予知しうる事態となれば、その結果が、事業税の課税標準にも及び、いずれは事業税に関する道府県知事による更正がなされるに至るであろうことは、当然予測できるものというべく、右の意味での納税義務者の予知があれば足り、修正申告書提出の際に県知事が更正の要件の存在を了知していることは必要ではない。(なお、国税官署による調査の結果を事業税に関し、道府県知事が援用することは、それ自体、納税義務者に対し特段の不利益を及ぼすものでないことは勿論、かえつて、法人税及び事業税の双方について各別に調査を受ける煩雑さを避けうるという意味において納税義務者を利するものであつて、十分合理性の認められるところと考えられるからである。)

2  そこで、本件についてみるに、原告が、昭和五三年五月三一日、昭和五三年三月期分の事業税につき、所得金額を一〇六万四〇三五円とする確定申告を行ない、ついで同五四年五月三〇日に、昭和五四年三月期分の事業税につき所得金額を一一六七万〇七五五円とする確定申告を行なつたこと、昭和五四年一〇月四日より川口税務署の調査を受け、同税務署の指導のもとに、法人税の所得金額を、昭和五三年三月期分については一〇六万四〇三五円から九二一万二〇三九円に、昭和五四年三月期分については一一六七万〇七五五円から三六四八万二八八〇円に、それぞれ増額して修正申告を行なつたこと、原告は、昭和五四年一二月一八日、事業税についても右と同様の修正申告を行なつたこと、同月二五日、川口税務署長は、原告に対し、前記各期分の所得に仮装、隠ぺいがあつたとして右法人税の修正申告により増額した所得について、重加算金賦課決定をなしたこと、埼玉県知事は、昭和五五年一月一一日、川口県税事務所職員を川口税務署に派遣し、調査をさせたことは、いずれも当事者間に争いがない。

右事実によれば、原告に対する事業税に関する調査は、原告による修正申告当時は、いまだなされていなかつたが、右修正申告は、川口税務署による法人税に関する調査が行なわれた後に、右調査の事実を認識してなされたものであることが明らかである。

そうすると、原告の本件修正申告は、法七二条の四七第三項、同条の四六第一項但書にいう「予知してなされたもの」に該当するものというべきである。

また、原告は、原告が本件修正申告の手続を依頼した木下税理士が更正を予知していなかつたから、右修正申告は、更正を予知してなされたものでない旨主張するが、川口税務署による調査を受けたのは、ほかならぬ原告自身であつて、前示のとおり原告が更正を予知していたとみられる以上、実際上の手続を行なつた者が予知していたか否かは関りがないというべきであるから、原告の右主張は根拠がない。

そうすると、本件修正申告については、法七二条の四七第三項は適用されないものというべきであるから、本件各処分につき、原告の主張するような違法事由は存しない。

3  原告の昭和五三年三月期及び五四年三月期分事業税額、徴収基準額などに関する被告の主張1の事実は、当事者間に争いがなく、原告が本件修正申告により増加した分の所得につき仮装または隠ぺいしていたことは原告が明らかに争わないところなので、自白したものとみなす。

三  よつて、本件各処分は適法であるから、原告の本訴請求は、失当としてこれを棄却することとし、訴訟費用の負担につき行訴法七条、民訴法八九条を適用して、主文のとおり判決する。

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